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自分は高柳の横顔を見ていた。
その頬には光がさしているようだった。

この少年は、たんに戦争の嵐に興奮しているのではないらしい。
そういう点にはひどくのんきな、鈍感とさえ思われるところがある。
それかといって、まさかお菓子にあこがれて
飛行機乗りになりたいわけでもないようである。
要するに、飛行機が好きで好きでたまらないらしい。

無邪気なるがゆえに、可憐なるがゆえに、血しぶく南海の
蒼空へ身もだえする少年の姿は、彼すらも知らない凄絶の光をはなつ。

知らずして悪へ進む者は、知って進む者より悲惨であり、
知らずして祖国の難に赴く者は、知って赴く者より崇高である。

もとより、この知らぬとは、祖国の難を知らぬという意味ではない。
自分の運命を知らずして、少なくとも他人に
そのことを絶叫することを知らないで、という意味である。

「高柳、通れよなあ」
と、自分はしみじみと言った。








「戦中派虫けら日記」


山田風太郎21歳の十月。


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